絵版にて。…(^^;)

夢幻のカイツ

【優しい子供】

「も〜一つ寝ると〜初詣〜♪」

のんびりとした歌声が、ある小さな…勿論金持ちの豪邸と比べた時の例えだが…とにかくある家の前から聞こえていた。
歌声の持ち主は、まだ大人には遠い印象を人に与えるあどけない少女。

「神社の前でメンコして〜コマを回して遊びましょ〜♪」

語呂だけはピッタリ一致している彼女のオリジナルの歌詞。
浮かべている表情に合わせ、その歌はとても明るく楽しそうであった。
時間はまだ昼、街行く人々にもその歌声に自然と微笑みが浮かぶ。

「は〜や〜くぅ来〜い来いお正月〜♪」

その歌に合わせ、小さい子供達がワイワイと集まり出した。

「年なんか明けなくて良いよ!!」

集まる子供達とまた歌を歌い始めた彼女の耳に、一転して否定的な言葉が激しい調子で飛び込んだ。
言葉の主を探せば、一歩距離を置いた場所で、射抜くという表現をそのまま当て嵌めても間違いではない程強く睨みつけてくる少年の姿。

「またお前かよぉ!」
「聞きたくないなら来なければ良いじゃん!」

細い瞳を限界まで吊り上げる少年へと投げられた拒絶の言葉は、子供達からだった。

「ダメだよ、お友達にそんな事言っちゃ?」
「違う!僕はこいつ等の友達なんかじゃない!」

子供達の心無い一言に咎めの注意をしたのだが、当の本人はまたも強く否定の声。

「ホラ、こう言ってるよ?」
「お姉さん、こいつの味方なんだ?」
「いいや、みんな行こうぜ!」

良くも悪くも、子供達は純粋だ。
冷たい言葉を残し子供の賑やかな集団は逃げる様にその場から離れていった。

「フン!周りの奴は皆そうだ。自分が楽しければそれで満足なんだ。」

鼻を鳴らし、小さい呟く様な声が彼女の元へと。
聞こえたその呟きに、首を傾げ、優しく微笑みを浮かべた。

「ねぇ?お正月とあの子達に何か嫌な思い出でもあるの?良ければで良いんだけど、お姉ちゃんに教えてくれないかな?」

自分に向けられた優しい笑顔に、反抗的だった少年の表情が少し和らぐ。
やはり彼も男の子。
16、7の可愛い女性相手では、さすがに抗えない。
とはいえ、彼はまだ5才そこらの子供であるが。

「…去年のお正月に、友達が病気で死んじゃったんだ。でも、アイツ等、その事を忘れて自分達だけ楽しければ良いって思ってるんだ!」

一瞬緩んだ緊張の糸が、また張られた。
だが、少年の放っていた言い様の無い威圧感の正体を知り、話を聞いていた彼女は寂しそうに眉を寄せていた。

「君は、辛い?」

優しい口調で、彼女は少年の白い髪の毛を撫でた。
ただ優しく、優しく…
だが、少年はその手を振り払い、強く睨みつける事で意思表示をした。

「辛い事なんか無い!僕は…僕はただアイツ等が憎いだけだ!!」
パシィッ…!

その一言に、思わず彼女は少年の頬を叩いていた。

「友達を憎んで何があるの!?友達を憎めば居ない子は戻って来るの!?貴方は、本当にそれが正しい事だと思ってるの?」
「…ぅ、五月蝿い!僕の気持ちも知らないくせに、知った風な事言うなよ!」

言葉の調子こそ強いが、少年の目尻には涙が多く溜められていた。
ふわり、彼女は何の前触れも無く、その少年を抱き締めたのだ。

「……もう、分かってるでしょ?自分が間違っている事…間違った事をしていた事。辛い、はずだよ?」
「僕は…辛くなんか……」
「泣きたい時はね?我慢しないんだよ?強がるのは良い。でも、涙を我慢したら、それだけ心が傷付くんだ。そんなの、君だけじゃなくて…皆が悲しいんだよ。だから……ね?」

膝をついて少年を抱き締める女性…
街行く人達はその光景を奇異な物でも見る様な眼差しで冷たく眺めていた。
当然ではある。
彼女達の会話など、周りの人間の耳には届いていないのだから。

「ハイハイ、見世物じゃねぇ〜んだ、用がねぇ〜ならとっとと失せて下さぁ〜い!」

調子の良さそうな声が、二人を庇う様にして降り注いだ。
見れば、其処には長身の男の姿…
だが、それでもやはり街の人達はその場を離れようとはしない。

「……あんまり忠告聞かないと…ブッタ斬るぞ?」

微笑みすら浮かべて剣に手をかけるその男の言葉に、漸く人々の波が動き出した。

「カイツ、あんまり注目集める様な行為はするなよ?ただでさえ可愛いんだから。」

返事を返そうとするより早く、男もまた人波に消えた。
まるでスーパーマンみたいな奴だ。

「…ねぇ?さっきの子達と、仲直りした方が良いよ?」
「…ぅん。」

純粋で無垢な少年。
彼女カイツは、すでに彼等と目の前の少年の願いが一つである事を察していた。
彼等もまた、一瞬だけでも辛そうな表情を浮かべていたからだ。
だからこそ、カイツは少年の背中を少しだけ押した。

「急がないと、また一人になっちゃうよ?さぁ、頑張れ☆」

強く頷く少年の背に、言い知れぬ懐かしさを覚えたのは何故だろう?
何度目かの、この国でのお正月の出来事だった。


















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